考えてもいなかったオリジナル幕が店の再生計画の柱に
懸垂幕や横断幕など、販促ツールの一環として古くから日本に伝わってきたのが、それらの総称とされるオリジナル幕。しかしこれまではスポーツ観戦のときに応援席でたまに見かけたり、役所の外壁に標語のようなものが書かれて垂れ下がっているのを目にしたりした程度。ファイルの写真を見て、「オリジナル幕をこんなふうに使って集客につなげているなんて、初めてみる光景でした」とMさん。
Mさんは父親が経営する飲食店を引き継いで、26才のときから店を切り盛りしてきた。しかしこの1~2年は客足が遠のき、閑古鳥が鳴くような日が増えた。理由はMさんの店に原因があるのではなく、それまで常連になってくれていた客の自動車工場が撤退・廃業に追い込まれたから。工場の空き地とともに、Mさんの店も廃業に追い込まれるのではという危機感に襲われていた。
そんなある日、営業マン風の身だしなみのいい男性客が店に訪れた。「この界隈も工場がなくなってしまって、店のやり繰りはみなたいへんでしょう」。そんな一言をきかっけに、Mさんは現在の店の現状を話すようになり、それが縁となって店はV回復の道をたどるようになった。彼女は、「まだまだ道半ばで、この先も達成したい目標はたくさんある」というが、かつての閑古鳥状態はすでにこの店にはなかった。
大型店舗を活かしオリジナル幕とハイビジョンで集客
Mさんの店は、客席数で数えると60席~70席はある、飲食店としてはかなりの大型店。店の前には10台は入る駐車場があり、その間口の広さからも、客の目には止まりやすい絶好の店構えだった。いまMさんのその店は単なる飲食店ではなく、「スポーツバー」へと変貌している。野球、サッカー、ラグビー、テニス、卓球、ボクシング~。スポーツと名の付くものは、ほぼ1日中放映されている。
●店内には大型のハイビジョン3台と中型のテレビ、スポーツグッズ、それにユニークなデザインのオリジナル幕が壁いっぱいに。
●何本も貼り出されたオリジナル幕(懸垂幕)には、店内イベントの日程やスポーツ観戦のスケジュールが大々的に。
●「ビッグデー」はW杯などの試合を優先放送。それ以外の日は、Mさんが放映プランを決める。ビッグデー以外の日は、来店客に得点も。
●オリジナル幕やオリジナルののぼり旗を使って予告するのは、その他、店の出し物や新作のメニューなども。
●店の外には、どうあっても目立ってしまうビッグサイズの懸垂幕やオリジナル幕が賑やかさを演出。
現在のこの店へ、変貌の手がかりをくれたのが最初にご紹介した“営業マン風の身だしなみのいい男性客”。彼は会社の中心事業であるIT・AIを武器に、商業施設や商店街、このような個店の再生プランを売り込む営業マン。幸いにもこの町には、熱烈なサッカーファンや野球ファンが多く、このような業態変換の提案に及んだと言う。
1年後には東京オリンピックが開催される。eスポーツの人気も高まってきた。民泊需要もまだまだこれからが本番。Mさんが考えるチャレンジのビジョンとは、この店を使って2階を民泊の素泊まり形式に改装し、1階をeスポーツの聖地に育てあげること。店にはオーナーそれぞれの歴史が刻まれているが、こんな形でオリジナル幕が店の再生に役立っているのは、今どきのトレンドなのだろうか。